運輸安全委員会の事故報告書データを使用した海難分析


はじめに
 運輸安全委員会は、その道のスペシャリストが、事故の検証を行い報告書として公表しています。
 報告書には、海難事故の経過が詳しく記述されており、海難事故の顛末が誰でも理解できる内容で記述されています。
 今回は、平成27年~令和2年6月までの5年6カ月間に、山口県(下関市等一部を除く範囲)、広島県、岡山県、香川県、愛媛県で起きた海難事故で、報告書として公表されている122件について、海難の種別、原因について、分析をしてみました。
 元データは、(ここ)に有ります。
 
:122件のデータは、圧縮ファイル(zip)としています。
  ダウンロード後、解凍してご使用下さい。
  解凍後、エクセルシートと各県のフォルダが出現します。
  今回のデータは、エクセルシートに記述の内容です。報告書は、最終列の「リンク」をクリックしますと、該当の報告書が出現します。

海難種別
         図1  1-1 用語の定義
衝突:船舶が他の船舶又は防波堤等工作物に衝突することをいう。
乗揚げ:船舶が、浅瀬、干出岩及び潜堤等に乗揚げ、航行ができなく成った状態をいう。
乗入れ:船舶が、牡蠣筏、ノリ養殖場及び定置網等の漁業区域並びに作業区域に侵入し、絡網等で航行ができなく成った状態をいう。
転覆:船舶の重心を大きく狂わせる加重の移動、風浪及び急旋回等の結果で、船舶の復元性が阻害された状態をいう。
人身事故:人体が損傷し、加療を要する状況をいう。(今回は死亡者無し。)
浸水:風浪又は船体の破口等で船内に海水が侵入し、動力を喪失した状態をいう。
機関停止:エンジンが起動しない状態をいう。
1-2 海難の状況
上表1は、122件の海難種別ごとに集計した表です。
 
衝突が64件、次が乗揚げの40件、以下が、乗入れ・転覆・人身事故の各5件、浸水2件、機関停止が1件と成っています。
上図1は、表1の値を比率で表したものです。
 
衝突と乗揚げで、85%と成っており、この海難事故を少なくする必要を感じます。

海難の原因
           図2
 2-1 用語の定義
見張り:前方及び周囲の状況を適切に把握する行為をいう。
操船:法令、機関、装備品の取扱いに熟知し、安全に航行できる技術をいう。
事前情報:航行及び遊漁海域の浅瀬等並びに航路標識の配置状況など航行の安全に必要な各種情報を事前に把握する行為をいう。
誤認:航路標識の見間違い、危険な場所を安全と認識する等の意識の錯誤をいう。
気象海象:風、風浪、霧及び豪雨等の自然条件をいう。
点検整備:船体、機関及び装備品をメンテナンスする行為をいう。
体調不良:身体の機能が不完全な状態をいう。
2-2 原因の状況
図1は、122件の海難事故の原因別に集計した表です。
 
見張り不良の52件を最大に、以下が、操船不適切22件、事前情報否の20件、誤認の14件、気象海象無視の10件、点検整備不良の3件、体調不良の1件と成っています。
上図2は、表2の値を比率で表したものです。
 
見張り不良が43%と最大と成っていますが、操船不適切、事前情報否、誤認、気象海象無視もある程度の割合と成っています。
 
ただ、誤認は、内面的な事柄でその解決には難しいものが有ると考えますが、見張りの励行、操船技術の向上、事前情報の収集等は意識の持ち方を少し変えるだけで、実現ができると思います。 


衝突の原因
 3-1 海難事故で一番件数が多い、衝突海難64件の原因について分析をしてみました。
          図3   3-2 衝突の原因
左表3は、衝突の原因を集計したものです。
 
見張り不良の46件を最大に、以下が、操船不適切の11件、誤認の4件、事前情報否の2件、体調不良の1件と成っています。
左図3は、表3の値を比率で表したものです。
 
見張り不良と操船不適切が原因の約90%と成っていることから、見張りと操船を適切に行えば、衝突事故を少なくできると思います。

乗揚げの原因
 4-1 海難事故で件数が二番目の、乗揚げ海難40件の原因について分析をしてみました。
           図4 4-2 乗揚げの原因
左表4は、乗揚げの原因を集計したものです。
 
事前情報否の16件を最大に、以下が、操船不適切の9件、気象海象無視の8件、見張り不良の4件、誤認の3件と成っています。
左図4は、表4の値を比率で表したものです。
 
事前情報否の40%、操船不適切の22%、気象海象無視の20%、見張り不良の10%、誤認の8%と、個体数のそれぞれが、分散する形と成っています。
この分散の理由は、サンプル数が40件と少ないことに起因していると考えていますが、事前情報の取得の必要性が大きいと考えます。

衝突・乗揚げ原因の具体例(各5件に集約)
 
衝突
   船長A・船長Bが見張りを適切に行っていなかった
   船長Aは他の作業中で見張りをせず、船長Bは相手船が避航と思い見張りをしなかった
   船位の確認を適切に行っていなかった 
   船長A及び船長Bの双方が避けると勘違いした
   定置網及び牡蠣筏の設置状況を把握していなかった
 
乗揚げ
   浅瀬、干出浜等の存在を知らなかった
   浅所の拡延状況を知らなかった
   沖碆が存在するを知っていたが、同乗者との会話に夢中で当該場所を航行した
   北西風が強く吹く状況下、圧流され西方沖の浅所に乗り揚げた
   風や波も余り無いので浅所まで流されないと判断した


おわりに
 今回は、プレジャーボート海難の事故件数及びその原因を運輸安全委員会の報告書で調べてみました。
 各事項に対するサンプル数が100件以下と少ないことから、統計的には多くの誤差を含むと思います。
 ただ、衝突原因は「見張りの不良」、乗揚げの原因は「事前情報否」が多くなっており、見張りの徹底や事前情報の把握が必要と感じました。
 他の海難事故も、ほぼ全てがヒューマンエラーに起因しています。
 チョットした心づもりで防げる事故です。
 別ページの「お役立ち(ここ)」で海上保安庁が「自問自答での安全対策」を推奨しています。
 これらの事を励行いただきたく存じます。